感謝と謙虚なリーダーシップがイノベーションを加速する

現代の企業にとって最大の課題の一つは「いかにしてイノベーションを生み出すか」です。

AIやデジタル技術の急速な進化、グローバル競争の激化、消費者ニーズの多様化によって過去の延長線上の戦略は通用しなくなっています。

とはいえ、現場に目を向けるとイノベーションが成功している企業のほうが少ないのが現状です。

その要因の一つに組織にはびこる「創造性を妨げる障害」が挙げられます。具体的には失敗を恐れる文化、上下関係に縛られた発言のしづらさ、そして上司の承認欲求などです。

このような障害が存在することで、多くのメンバーが「余計なことは言わないほうが安全だ」と考え、挑戦や提案を控えるようになってしまい、イノベーションが生まれないのです。

こうした状況でカギを握るのがリーダーの「感謝」と「謙虚さ」という資質です。

一見すると従来のリーダー像とは正反対のようにも思えますが、実はこの二つこそが組織に心理的安全性をもたらし、自由な発言や挑戦を促す土台となるのです。

「感謝」と「謙虚さ」がイノベーションに与える影響

組織のリーダーの「感謝」と「謙虚さ」がイノベーションにどんな影響を与えるのかを調べたサンフランシスコ州立大学のチェンウェイ・リー教授らの研究があります。

この研究では複数の企業に協力を依頼し、71のチームからデータが収集されました。

上司の姿勢は部下に行動をどう変えるのか

まず、各チームのリーダーから自己申告で、日常的に他者の貢献やサポートをありがたいと感じ、それを表現しているかを確認しました。

次に部下たちが日常的なリーダーの行動を評価しました。特に注目されたのは「謙虚さ」に関する行動です。これはリーダーが自分の限界を認めるか、部下から学ぼうとするか、他者の貢献を率直に認めるかといった態度を問うものでした。

最終段階ではリーダーのさらに上の上司(上級管理者)が各チームのイノベーションを評価しました。これは単なるアイデアの多さではなく、チームが実際に新しい方法や製品、改善策を生み出しているかどうかを基準に判断されました。

上司の感謝と謙虚さ→部下の積極的発言→イノベーション

これらのデータを分析したところ、感謝の気持ちを持っているリーダーほど謙虚で自分の限界を認めたり、他者の貢献を素直に評価する姿勢を持っていることが分かりました。

そして、その謙虚な行動が部下に「発言しても大丈夫だ」という安心感をもたらし、新しいアイデアや意見を引き出しやすくすることが明らかになりました。

最終的には、それらの積極的な意見がチームのイノベーションを生む基盤になっていたのです。

一方で、リーダーの利他的な行動や親切さそのものには、チームの声やイノベーションとの関連が見られませんでした。

このことから、「優しいリーダー」であるだけでは不十分であり、「感謝」と「謙虚さ」を基盤とした行動こそがイノベーションの鍵を握ることが分かります。

明日からできる感謝と謙虚さの実践

研究結果は、現場のリーダーや組織運営に直接役立つヒントを与えてくれます。

リーダー個人の視点

まず、リーダー自身にできることです。

  • 感謝を言葉にする習慣を持つ:小さな成果や日々の努力に「ありがとう」と伝えるだけでも、部下の心理的安全性は大きく高まります。
  • 意見に耳を傾ける姿勢を示す:たとえ採用しないアイデアでも、「真剣に聞いてもらえた」と感じれば、次の発言につながります。
  • 自分の限界を認める勇気を持つ:「知らない」「教えてほしい」と言えるリーダーは部下の成長意欲を刺激し、信頼関係を深めます。

組織の視点

一方で、組織にもできる支援があります。

  • リーダーを支える制度を整える:評価や報酬の仕組みに「感謝」や「謙虚さ」を反映させると、望ましい行動が広がります。
  • 心理的安全性を育む文化を推進:失敗を過度に責めない、挑戦を歓迎するメッセージを組織全体で共有することが大切です。
  • メンタリングや研修:感謝や謙虚さを実践的に学べる場を提供することも有効です。

このように、リーダー個人の努力と組織的な仕組みづくりの両輪があって初めて、イノベーションの土壌が育まれます。

感謝と謙虚さは最強の武器

これからのリーダーに求められる条件は、従来の「強さ」や「支配力」ではありません。むしろ、感謝を伝え、謙虚に学ぶ姿勢こそが、チームをイノベーションへ導く力になります。

感謝の言葉がメンバーを励まし、謙虚な態度が声を引き出し、その声が新しいアイデアを生み出す。こうした好循環をつくれるリーダーは、未来の変化に強い組織を築いていくでしょう。

そして、そのリーダーを支えるのは組織です。企業がリーダーを信頼し、支援する文化を持てば、感謝と謙虚さは自然と広がり、チーム全体にイノベーションの芽が育っていきます。

「感謝」と「謙虚さ」は決して弱さではなく、イノベーションを加速させるための最強の武器なのです。

参考文献:Zhou, L., Mao, J., Chen, Z., Wang, Z., & Wu, X. (2024). Appreciation that inspires: The impact of leader trait gratitude on team innovation. Journal of Organizational Behavior, 45(2), 123–141.