起業を成功させるためには「誰と一緒に事業を始めるか」が極めて重要です。
資金やアイデアと同じくらい、チームの構成が成否を左右すると言っても過言ではありません。
ここ数年、多様性を持つチームがより優れた成果を上げると広く語られてきました。異なる背景や視点を持つメンバーが集まれば、斬新なアイデアや柔軟な解決策が生まれるという考え方です。
しかし、実際の起業現場では必ずしも多様性がプラスに作用するとは限りません。
特に事業立ち上げ初期の段階では、意思決定のスピードやチーム内の協調が重視されるため、属性の違いが摩擦や非効率を生むリスクも存在します。
創業メンバーの多様性と生産性の関係
スタートアップの創業メンバーの多様性が、ビジネスの生産性にどんな影響を与えるのか調べたフェアリー・ディキンソン大学のコウ・ウンジョン博士らの研究があります。
対象となったのは、2005年から2010年にかけて米国で事業立ち上げを進めていた285の新規起業チームです。各チームの活動は6,000件以上の観測データとして記録されており、信頼性の高い分析が可能となっています。
研究者たちは、チームの起業準備行動の数を「生産性」として定義しました。これは、法人設立や資金調達、契約締結、製品開発など事業を前進させる具体的な行動を指します。
分析の結果、創業時のメンバーの多様性と生産性には次のような関係があることが分かりました。
多様性そのものの効果
まず、多様性がチームの生産性に与える直接的な影響を見てみましょう。
- 年齢の多様性は、生産性を下げることが確認されました。世代間の経験や価値観の違いが、意思決定のスピードを阻害する要因となった可能性があります。
- 性別の多様性も同様に、生産性を低下させる結果となりました。性別役割に関する無意識の偏見や、意思疎通スタイルの違いが影響したと考えられます。
- 民族の多様性は生産性を高める方向に働くことが明らかになりました。異なる文化的背景やネットワークを活用することが、新たな機会やリソースにつながった可能性があります。
メンバー内に家族が含まれる場合の効果
今回の研究では、メンバー内に家族が含まれているかどうかも確認していますが、それによって以下のように効果が異なることも判明しました。
- 年齢の多様性 × 家族関係:家族メンバーが含まれる場合、世代間の違いがむしろ学び合いや補完関係を促進し、生産性向上につながる傾向が見られました。
- 性別の多様性 × 家族関係:家族の絆が存在することで、性別による分断が弱まり、協働がスムーズになる効果が確認されました。
- 民族の多様性 × 家族関係:有意な交互作用は見られず、民族多様性は家族関係の有無に関わらずプラスの影響を与える結果となりました。
このように家族関係が多様性の負の側面を打ち消す役割を果たしていたのです。
なぜ家族がいると違いを乗り越えられるのか
本研究の結果は、社会的アイデンティティ理論で理解することができます。
人は年齢や性別などの目に見える特徴をもとに、自分と他者を「内集団」と「外集団」に分けがちです。
この区別が強調されると、コミュニケーションの摩擦や信頼関係の希薄化を招き、生産性の低下につながります。
一方で、家族関係はこのような分断を和らげる働きを持ちます。
家族という共通のアイデンティティは、チームメンバーの違いを超えて「私たちは一つの集団だ」という意識を生み出します。
また、親・子・兄弟といった役割が職務上の役割と重なり合うことで、相互理解やサポートが自然と促進される点も重要です。
創業メンバー選びで意識すべきポイント
チーム編成における注意点
スタートアップにおいては「多様性をどのように扱うか」が極めて重要であることが明らかになりました。
特に年齢や性別の違いは事業立ち上げ初期には強みというよりも、むしろ摩擦やコミュニケーションの齟齬につながりやすい傾向があります。
役割や責任がまだ流動的で、意思決定のルールも定まっていない段階では、個々のバックグラウンドの違いが前面に出やすく、意図せず「内集団」と「外集団」の区分を生み出すことがあります。
その結果、些細な衝突や遠慮が積み重なり、チーム全体のスピードや一体感が損なわれる可能性があるのです。
したがって、多様なメンバーを集める際には、属性のバランスを重視するのではなく、初期段階における摩擦を最小化できる体制を同時に整えることが求められます。
多様性を活かすための工夫
とはいえ、多様性そのものを否定する必要はありません。
むしろ、本研究で民族的な多様性が生産性を高める方向に作用したように、異なる文化やネットワークを持つ人材は、外部資源の獲得や新市場の開拓において大きな強みとなり得ます。
重要なのは、多様性を摩擦の原因ではなく「補完的な資産」として機能させるための仕組みを整えることです。
たとえば、ビジョンや目標をできるだけ具体的かつ共有可能な形で明文化し、全員が「同じ方向に進んでいる」という意識を持てるようにすることが効果的です。
また、定期的な振り返りやチームビルディングの場を設け、互いの背景や強みを理解する機会を増やすことも有効です。
このように、共通アイデンティティを意識的に構築し、協働を促進する工夫を重ねることで、多様性は単なる違いの集合体ではなく、事業を加速させる原動力へと転換できます。
心理的安全性が多様性を力に変える
スタートアップにおけるチーム作りは、一度決めたら簡単にやり直せるものではありません。
だからこそ、多様性をどう生かすか、家族や信頼できる関係性をどう活用するかは、最初の段階で慎重に考えるべきテーマです。
研究が示すように、多様性にはプラスの側面とマイナスの側面があり、そのバランスを整える要因の一つが家族関係でした。ただし、これは「家族がいればすべてうまくいく」という単純な話ではありません。
むしろ重要なのは、信頼関係や共通の目的意識をどう構築するかという点にあります。
近年の研究では「心理的安全性」という概念が注目されています。
チームのメンバーが安心して意見を出し合える環境があるかどうかが、生産性やイノベーションに直結するという指摘です。
家族関係があるチームは、この心理的安全性を自然に確保しやすい可能性がありますが、必ずしも血縁に頼る必要はありません。非家族のチームでも、互いの信頼を深め、安心して異なる視点をぶつけ合える環境を整えれば、多様性は大きな力へと変わります。
つまり、起業家にとっての課題は「誰をチームに入れるか」だけでなく、「その違いをどうマネジメントし、協力関係を築くか」にあるのです。
参考文献:Ko, E.-J., Wiklund, J., & Pollack, J. M. (2020). Entrepreneurial Team Diversity and Productivity: The Role of Family Relationships in Nascent Ventures.

