YouTube作家が趣味で書いたショートショート・ストーリー(超短編小説)です。新作を随時追加しています。面白いかどうかは分かりません。ちなみにショートショートの作家では星新一さんが好きです。
彼は推理小説家だった。ただし、小説を書いたことは一度もない。
少し事情があった。父親が、名の知れた推理小説家だったのである。だが数年前、あっさり死んだ。そのとき、机の引き出しや押し入れから、未発表の原稿が山ほど出てきた。
生前、彼の父親は言っていた。「私が死んだら、この原稿をお前の名前で出せ」と。現金を相続すれば税金がかかるが、原稿ならその心配もない。なかなか実務的な親心だった。
彼は忠実な息子だった。父親に言われた通りにした。するとどうだろう。デビュー作は、いきなりの大ヒット。世間は「天才の出現だ」と騒いだ。
無理もない。売れっ子だった父の原稿なのだから、面白くないはずがない。彼はその後も、期待の大型新人として次々と作品を発表した。
やがて、そのうちの一作が「江戸川乱歩賞」を受賞した。推理小説家なら誰もが一度は夢見る賞である。
授賞式のあとの記者会見。フラッシュが光り、質問が飛ぶ。
ある記者が尋ねた。
「この作品の最大の見どころは?」
そこで彼はこう答えた。
「まだ読んでいないので、分かりません」
(※某女優の出版記者会見をアレンジして創作)
駅の売店の前に、自動販売機が置かれていた。
お茶もジュースも、缶コーヒーも、すべて百円。場所が場所だけに、売れ行きは悪くない。
ただ一つだけ、例外があった。
お汁粉である。
誰が急ぎ足のホームでのんびり甘い汁を飲むだろう。店長はため息をつき、値段を80円に下げた。それでも、ボタンはほとんど押されなかった。
ある日、通りかかった経営コンサルタントが事情を聞き、設定は変えずに値札だけを100円にするよう言った。
そして百円玉を入れ、迷いなくお汁粉のボタンを押す。
ガタン。
缶と一緒に、釣り銭口へ十円玉が2枚落ちてきた。
彼は周囲に聞こえる声で言った。
「設定ミスだ。お汁粉を買うと20円得する」
それを聞いた客が真似をする。また20円が落ちてくる。さらに別の客も押す。
気づけばその自販機は、「お汁粉を買うと得する自販機」として知られるようになり、売れ残りだったお汁粉は、いつの間にか一番の人気商品となった。
コンサルタントは店長に微笑む。
「人は、安さより得に弱いんですよ」
その様子を陰から見ていた百貨店の経営者が、はっと顔を上げた。
「そうか!値段を上げて、あとで返せばいいのだ……」
こうして世の中に、ポイントという甘いお汁粉が広まったのである。
私は結婚について迷っていた。自由か世間体か…。40歳を手前に「自由」などと言っているのも、馬鹿らしいのかもしれない。
ここ数日、独身と既婚のメリットとデメリットを何度も頭の中で反芻している。だがその答えが出ることはなく、堂々巡りを繰り返す。独身なら自由気ままに生きていくことができる。給料だって全て自分のために使うことができる。色んな女と遊ぶことだってできる。
だが40歳を過ぎて独身の男は、世間からどう見られるのだろうか?特に自分のようなお堅い職業の人間は、結婚していることで得られる信用もあるのかもしれない。
決断の時が迫っている。エヌ子は私を急かす。同級生の彼女も間もなく40歳になる。いつまでも無意味な関係をズルズルと続ける気はないそうだ。
愛のない関係を惰性のまま続けて、彼女の可能性を奪うのも心が痛む。私は腹を決めた。お互いのために自由を選ぶことにした。
目の前に置かれたその紙は、10年前に書いたものと同じような体裁をしていた。すぐに認識できる違いといえば、表題の文字くらいだろうか。「婚」の字が2文字目に移動していた。
「俺が新人の頃はもっと早く出社していたぞ」
いつもギリギリに出社してくる部下に上司が言った。
「そうは言っても朝は何かと忙しくて……」
部下は言い訳をするように答えた。
上司はさらに言う。
「5分でいいから早く来てみろ。朝の5分というのは昼間の1時間くらいの価値があるんだ。その時間に集中して仕事をすることで効率も上がるというものだ」
「努力してみます」
部下は自信なさそうに答えた。
翌日、部下はなんとか始業の5分前に会社に到着することができた。上司も満足そうだった。
午後になり部下が帰ろうとしたので上司は言った。
「おいまだ、定時まで1時間あるだろ?」
「でも僕は今朝、5分前に出社しましたから。朝の5分は昼の1時間の価値があるんですよね」
そう言って部下はさっさと帰っていった。
神様は空から地上に、スイッチを落としてしまった。そのスイッチは、世界を破壊することのできる危険なものだった。
それを知った地上の人々は、必死でスイッチを探した。そして一人の男がスイッチを手にいれた。そのニュースは、世界中に広まった。
人々は、男が癇癪を起こしてスイッチを押してしまわないようにと、男に親切にした。皆が親切にしてくれるので、男は自分が偉くなったと思い込み、横柄な態度をとるようになった。
それを見ていた神様は、スイッチをもう1つ地上に落としてみた。そのスイッチをある女が拾った。皆は女に親切にした。先にスイッチを見つけた男も女に親切にした。もちろん女も男に親切にした。
それを見た神様は、地上にいる全員分のスイッチをばらまいた。皆が皆に親切にするようになった。
神様は、自分のためにしか親切に出来ない人々に絶望してスイッチを押した。
スイッチは「カク…カク…」と音を立てはじめた。
僕の父は、僕の彼女のことをとても可愛がっている。
デパートに行けば、彼女に似合う服がないか何時間もかけて探す。レストランに行くときも、彼女の雰囲気に相応しい店がないか、必死で探す。
その執着ぶりは異常なほどだ。実の娘だったとしても、そこまでしないだろう。
ある日、自宅で両親と彼女と食事をしていると、見知らぬ男がやってきた。父が招待した男だった。その男も一緒に食事をした。
男は一流大学出身のエリートだった。おまけに顔もスタイルも良い。
食後、父が僕に言った。
「心配するな。お前にも、そのうち相応しいガールフレンドを探してやる」
神様は困っていた。人間たちの信仰心が薄れていたからだ。特に日本という国は99%の人が神様を信じない国だった。
なんとかしなければと思っていた神様のもとに、一人の男が現れた。
「神様、私が日本人の信仰心を高めてあげましょう」
「そんなことが出来るのかね?」
「お任せください。明日この場所に来てください」
そう言うと、男はある場所の地図を神様に渡した。
翌日、神様が地図の場所に行ってみるとそこは海だった。たくさんの海水浴客たちで賑わっていた。
海の家を見るとあの男がいた。男はかき氷を売っていた。神様は男のもとへと近づいていった。
「君はかき氷屋さんだったのかね?」
「いいえ。これは仮の姿です。そんなことより、もうすぐ皆が神様の存在を信じてお祈りを始めるから待っていてくださいね」
男は自信満々に言った。
しかし、神様は本当にそんなことが起こるのだろうかと不思議に思った。
神様が砂浜に座って海を眺めていると、1人の女が「あぁ神様……どうか……お願いします」と言いながら歩いてきた。その後も次々と老若男女が「神様……神様……」と言いながら海からあがってくる。
みんなが神様の存在を信じるようになり、神様は嬉しくなった。そしてかき氷を売っている男にお礼を言った。
「君のおかげでみんなが神を信じるようになってくれたよ。ありがとう」
「おやすい御用です」
「一つ聞きたいのだが『モレマセンヨウニ』というのはお祈りの言葉なのかね?」
街で評判の「メニューの多い料理店」に家族と一緒にやってきた。
料理長はどんな料理でも出せると、豪語している。
父は寿司を注文した。母はパスタを注文した。
なかなか良いチョイスだ。寿司とパスタを一緒に出せる料理店はそうそう無い。
私はさらに厨房を混乱させてやろうと、シーフードピザを頼んだ。
しばらくすると、父の注文した寿司が運ばれてきた。すぐに母の注文したパスタも運ばれてきた。
どちらも手抜きした感じではなく、美味しそうだ。実際に二人とも「美味しい」と言って食べている。
私の注文したシーフードピザは、まだやってこない。さすがに注文が意地悪すぎたのかもしれない。
何分待っても来ないので、父も母も自分の料理を食べ終わってしまいそうだ。
私は店員を呼びつけて、「ピザはまだですか?」と聞いた。
店員は「確認します」と言って、店の奥に消えていった。
それからすぐ、先ほどの店員が誰かと電話をする声が聞こえてきた。店員は電話口の相手にこう言った。
「シーフードピザは、あと何分で配達してくれますか?」
